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奇跡だと思う。
私の名前は、「美梅」美しい梅と書いて「みうめ」。
親友の「桃香」はその名の通り桃の香りと書いて「ももか」。
「梅と桃、ここに桜が来ればもう最強じゃない?」桃香がそういってケラケラ笑っていたら、突然、目の前に「桜」が現れた。
桜子だ。
「うへ!梅と桃と桜がそろった!」いちいち口に出さないと気が済まない桃香が叫んだ。
「そろそろ私の出番かと思ってさ!気を利かせて来てあげたわよ」
呼んでもないのに現れた桜子が斜に構えた瞳をキラリと輝かせて言った。
「呼んでない」桃香があっかんべーをしながら桜子の前を大またで横切った。
春の黄金のスター三人が、こんな狭い場所で勢ぞろいするなんてそうそうあることじゃない。
ミニスカートの裾がいつも弾んでる桃香。明るくて陽気で、他人の目を気にせずにポンポン物を言う。そういうところがね、いいなって思う。好きだなって。だって私にはできないもの。憧れかな!
桜子はいつだってスター気取り。
「私が姿を見せれば、誰もがたちまち笑顔になるのよ」
そう言って、顔のそばまでぐいぐい寄って来る。桜子の肌の美しさといったら遠くまで透けて見えそうなくらい艶やかで眩しい。
ヒラヒラした薄いベールみたいなスカートなんか着られるともう誰だってノックダウン。確かにスターだと思う。
それに比べて私なんか、梅よ、梅。
なんだかババくさくて嫌なんだ。梅干しだの、松竹梅だの。干されて干からびてシワシワになった上に塩っぱくなるイメージなんて正直要らない。
正直◯◯って言い方、正直嫌いなんだけどね。だって、正直〜なんすよ〜って言う人に限って嘘つきだったりするじゃない?でも、ここでは、あえての「正直要らない」なのよ。松とか竹とか葉っぱばかりの地味な人たちと一緒くたにされちゃって、私だって立派に花を咲かせてますーっつーの!
なんて、ちょっとキレたくなったりしてね!
だけどね!
もっと悲惨な子もいるのよ。
その名も木瓜子ちゃん。
「木瓜」と書いて「ボケ」と読む。
なんていうかちょっとおとぼけさんみたいよね!くすくす。
あ、人の名前を笑ったりしたら最低よね。
その名前に至るまでの高貴な理由が、きっとあるに違いないわよね。
ごめんなさい。
皆んなが冬に飽きる頃わたしが現れ、冬のしんとした景色の中、小さく色を灯すの。まだまだ、さむっ!ってなりながらもちょっとだけ地味に咲いてる私の姿。まるで、ちょっと控えめな灯りみたいでしょ。しみじみ心和ませるのよ。本当はね、最近、そんな自分も好きになってきたところ。自己肯定感?ってやつ?大事よね。笑
そのあと、なーんとなく春っぽい日がポツポツと出始め、長いコートをミニスカに変えた桃香が登場して目にも鮮やかなピンクを弾けさせるわけ。
ほら!そろそろ春が来るわよ!みたいに!
その頃になるともう最悪。
皆んな、梅ちゃんなの?桃ちゃんなの?って誰が誰だかわからなくなっちゃうのよね。
この強い香りは、やっぱり桃ちゃん?なんてやってるところに、木瓜子ちゃんまで乱入してくるから、ほとんどの人は、梅やら桃やら木瓜やらわけわかんないんじゃないかしら。
どんだけ間違えたら気が済むわけ?って言いたくなるけど、これって、地味だと思い込んでた私も実の所すっごく魅力的ってことよね?
ごっちゃごちゃのわっちゃわちゃが続いてる間にね、今度は私たちの神様みたいなお日様がどんどん雲の上に登って大好きな光をプレゼントしてくれるの。ときめいちゃうわよねー。煌めき感ハンパないわよ。
そこへ待ってましたと、ラストを締めくくるように、そお!桜子がジャジャーンとすごい豪勢に着飾ってやってくるのよね〜。
この華やかバトンリレー。
もはや、奇跡としか言いようがないわよね!